それでもその川のことが気になった。
家に帰って手持ちの地図を見てみた。驚いたことに、地図は意外と正確だった。
国道から役場を過ぎたところの道を入ると、畑があるようだった。そこを抜け、川沿いの道に出れた。
もっと驚いたことに、そこを進んで行くと地図に小さく"平" って書いてあった。
60年前と変わらない。
ひょっとして川も変わらないんじゃないか?
廃村になっているなら誰も居ないし、尺を超える大岩魚が群れ泳いでいるんじゃないか?と思った。
翌日、仕事の合間に地図屋に行ってみた。
今はあるか知らないが、その頃前橋の街中に地図だけを扱う店があった。
何分の1だったか?細かく等高線の入った地図で、全国のどこの地域のも売っていた。
爺さんが住んでいたという平という場所の地図はすぐに見つかった。
爺さんに言われた通り、川に下りて進み、しばらく行くと右側に大きく切れ込んだ地形が見て取れた。
ただし、そこには川は無く、ただ等高線が山の置くまでV字に切れ込んでいるだけだった。
地図を買おうか悩んだが、買わなかった。
爺さんの書いてくれた地図がある。それで十分だ。
その地図には国土地理院でも知らない秘密の川が流れている。
俺はもう、そこに行くことを決めていた。
そこは”俺だけの川“だと思っていた。
つづく
この話はフィクションです。