爺さんは、3時頃 器を上げにやってきて、俺が居るとしばらくくだらない話をして、いつもノリノリで帰っていった。
ある日、大盛り蕎麦を出前に来た時、みかん箱より一回り大きい段ボール箱を抱えて現れた。
『何?それ?』と聞く前に
『トマト持ってきたからみんなで食いな!』
と言いながらノリノリで会社に入ってきた。
『マジ!嬉しい!!』
『凡ちゃんトマト好きだろ。全部食べたっていいしさ、たくさんあるからみんなと分けたっていいだんべ。』
俺はトマトが大好きなのだ。
『マジ?でもこんなにいいの??』
『あぁ、いいの、いいの。撥ねだしだよ、撥ねだし。こないだ田舎に行ったときダンプに一杯もらってきたんさ。』
『え?ダンプに一杯?』
『軽トラくらいかな?アハハハ!』
爺さんはノリノリで帰っていった。
普段、竹草庵に注文しないヤツらまでが群れてやってきてトマトは瞬く間になくなった。
俺の分を確保するのが忙しいくらいだった。
爺さんは3時過ぎに器を上げにやってきた。
田舎ってどこなん?と、聞くと北部の山村だという。
そっちには釣りでよく行くと言うと、釣りの話になった。
以前は渓流釣りをしたらしい。
爺さんが住んでいたのは、その山村のさらに奥で、今は廃村になっているらしかった。
近所の川でたくさん釣れたと言っていた。
俺は聞いてみた。
『そっちにいい川、無いの?岩魚が釣れるようなところ。』
『岩魚なんかどこでも釣れるだんべ。』
『普通の川じゃなくて地元の人しか知らない超穴場。』
爺さんはニヤニヤしながら答えたよ。
『じゃ、紙と鉛筆もってきな。いいとこ教えてやらい。』
俺の差し出した紙に、直線というより波線で地図を書き出した。
国道と役場、そして、その先から曲がって畑道を通り川へ抜ける道だった。
道の線はヨロヨロだったが、書き込む文字は達筆で綺麗だった。
かえって読みづらかったけどね。ガハハ
『この川沿いをしばらく行くと急に広くて平らな場所に出るんさな。そこが”平“ ってとこなんさ。おじさんの居た村さ。そこの一番端まで行くとだんべ、川に下りていく道があるんだい。』
爺さんは車の駐車場所まで書いてくれた。
川までは傾斜した林を300mほど下るらしい。
川に下りて、上流にしばらく行くと右側に水の無い沢があるという。見落とさないように気を付けろと言った。その沢をしばらく上っていくと水の無い滝がある。その滝を登ると、またしばらく水の無い沢が続く。そこを登って行くと、また水の無い滝がある。その滝も登って上にでる。そうすると、その滝の上には沢水が流れているんだそうだ。その沢は、登って行くとだんだん大きな流れになって岩魚が棲んでいるという。
『ここいきゃ~、尺岩魚なんてバンバン釣れらい。』
というのだ。
そして、沢の名前を書き込んだ。
達筆すぎて読めなかった。ガハハ
そして付け加えた。
『おじさんが子供の頃は、お化けが出るから行っちゃなんねぇって言われたもんさ。まぁ~、お化けにあったこた~ねけどな。子供が行くと危ねぇからそう言ってたんだんべ。うんと険しいとこだから気をつけて行けよ。』
『ん?子供の頃?おじさんが子供の頃の話??』
『そうさ、おじさんがそこに住んでたんは、こんなちぃ~せい頃だ。』
爺さんはその頃、70歳くらいだった。
つまりその話しは60年位前の話ってこと。ガハハ
真剣に聞いてた俺がアホに思えた。
爺さんは地図を丁寧にたたむと、
『無くすなよ。ここは内緒の場所だからな。』
と言って、鼻歌を歌いながらノリノリで帰っていった。
つづく。
この話はフィクションです。