みんな知っている通り、俺は嫌なヤツなので地獄へ落ちます。
まぁ~、悪いヤツなので仕方ないね。ガハハ
でも、まだ、今は行きたくはない。
両親が天寿を全うしたら、見送ってあげたい。
子供たちが成長し、大人になるのを見届けたい。
そしたら、いつ、あっちの世界へ行ってもいいと思っている。
地獄は悪いヤツばかりだから、いじめられてまた死ぬかも。あはは
とか言いながら、100歳まで生きたいとも思っていたりする。
あの震災から3年経った今日、俺はいつもと変わらぬ一日を過ごした。
あの日の事を思い出すと、今でも怖くなる。
テレビでは津波と原発のニュース。
日本地図のほとんどに赤い津波の警報を知らせる印が記されていて、それを一晩中見て過ごしていた気がする。
あの夜から3年も経ったのか。
去年の秋ごろから、俺の家には、新しい友達が同居していた。
彼は、自分のことは、すべて自分で自分でやっていた。
俺にまったく迷惑をかけたことはない。
俺が仕事に行っている昼間。寝ている夜。
彼は彼自身の人生を生きていた。
俺と一緒になるのは風呂の時だけだ。
俺が風呂に入ると、彼はすでに風呂場にいてジッとしていた。
初めて会ったのも風呂場だった。
風呂桶のフタの上をゆっくりと歩いていた。
俺はシャワーの水で彼を流した。
翌日、俺が風呂に入り、シャワーで体を洗っていると彼は風呂場の天井に居た。
彼とは1mmほどの蜘蛛の子供だ。
それから毎日のように、彼はそこに居た。
2・3日留守にすることもあったが、しばらくすると帰って来てそこに居た。
何を食べていたのかな?
正月の頃には結構大きくなって3mmくらいになっていたよ。
俺は毎日、彼に会うのが楽しみだった。
彼は何をするわけでもなく、いつも風呂場の天井に居た。
ところが、立春を迎える少し前、彼は居なくなった。
2・3日で帰ってくると思っていたが、あれから一ヶ月以上、風呂場の天井に現れていない。
どこに行ったか知らない。
俺が彼を友達と思っていたのと同じく
彼が俺の事を 友達だと認識していたら・・・、
俺が地獄へ落ちた時、糸を垂らしてくれるかな?
その時、俺はその糸にすがりつくかな?
どうかな?
たぶんすがりついたりしないと思う。
俺はその糸に、彼への手紙を結わい付け、地獄への階段を下りていくのだ。
手紙には、
『あの時は水をかけて悪かったな。』
と、書くつもりだ。
この話はフィクションですのでお気になさらずに。