ところが、週末が近づくと釣りの誘いがあって、一人の釣行ってのがなかなかできなかった。
秘密の川に行けたのは9月になってからだった。
日の出の頃に家を出たが、9月ともなると日の出は遅くなっていて、平に着いたのは7時半を過ぎていた。
以前と同じ場所に車を止めて思い出した。
“もう少し奥に、入沢ってとこがあるからそこから来た方が危なくねえし近けぇ。”
道は先に進んでいる。ちょっと行ってみるかな。俺はエンジンをかけ、先に進んでみることにした。
けして広くは無いが、林道が続いていた。
山仕事に行く車が通るためだろう。竹草庵の爺さんが居た頃は車なんてろくに無かった頃だし、今とは違うんだな。と思った。
しばらく進むと道は山を登りだし、川から離れて行った。平から2kmほど来たところにチェーンが掛けてあり道が塞がれていた。
下りてみると鍵はかかっておらず開ければ入れそうだった。立ち入り禁止の文字も見当たらなかった。
チェーンの前に車を置き、歩いて少し行ってみたが、100mほど先で道は二股に分かれていて、どっちが入沢に行く道か分からなかった。
行ったところでその先が分からない。危ないな。遠くても分かっている道から行こう。
そう考えて、来た道を戻って平に行った。
時間をロスした気がして急いで準備し、急な傾斜地を降りて行った。まだ暑かったけど頬を撫でる風は完全に秋の風だった。汗を書いても気持ちよく拭ってくれた。
本流の流れは細く涸れていた。
こんな少なくて、あの沢は大丈夫かな??
それでも2度目というのは妙な安心感があって、足取りが軽かった。もう地図もいらなくて見ることは無く、ベストのポケットの中でグチャグチャボロボロになっていたけど気にもしなかった。
沢の入り口まであっという間の気がした。
11時前には2つ目の滝まで行ける。2時間も釣れば十分だ。4時には車まで戻ろう。
そう決めて水の無い沢を登って行った。
2つ目の滝を登りきった時、時計は10時半を少し回ったところだった。
上流を眺めるとゴロゴロと転がる石の間に去年と同じく流れが見えた。去年と同じ川幅が広くなり大きな瀬になっているところで去年と同じく準備した。
去年と違って先行者は居なかった。
良かった。今年は気にせず釣れる。
フライにフロータントを塗りつけ ふ~~~っ と、やった時
『また来たんか。』
久しぶりに驚いた。ガハハ
川漁師のオッサンが立っていた。
『ビ、ビックリシタ。。。ど、どうも。今年も来ました。』
オッサンは竿を持っていなかった。
『今日は釣りじゃないんですか?』
オッサンは腰に付けた籠からキノコを出して見せた。
『魚は錆びてきたから、今年はもう終わりだ。』
『そうなんですか。俺、少し釣りたいんですけど。』
オッサンは笑って
『付いて来い。』
と、言った。
すぐに大きな岩魚が浮いているのが見えた。
つづく
この話はフィクションです。